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「先輩……?」
――先輩は私を抱きしめたまま全く動かない。
むしろ離すまいとでも言うみたいに私の背中に回している腕に力を入れてくる。
しばらく沈黙が続いた。
「…………愛美?他に言いたい事は?」
「……?もう、無いです。」
「そっか。」
先輩はそう言ってまた黙った。
そして先輩の体が離れたと思った瞬間、先輩の唇が私の唇に優しく当てられていた。
私はびっくりしすぎて固まってしまった。
「ちゃんと好きだよ、愛美。」
「っ…………」
「俺ね、歌手になろうと思ってんだ。」
「え……?!」
私は先輩の発言に耳を疑った。
――先輩が……歌手?
「友達とバンドやってんの。だからそいつらと頑張って頑張って頑張って……!絶対デビューしてやる。大学も音楽系の所に行く。」
「うん……」
「でもデビューするってやっぱりそんなに簡単じゃないから、時間はかかると思う。だから愛美?俺、待っててほしい。」
先輩はそう言うと、私に驚く間を与えないように私の唇に人差し指を当てた。
そして話し続ける。
「今より寂しくさせちゃうかもしれない。でも、大学行ってバンド活動して、俺が無事デビューできるまで……それまで待っててくれる?」
「……先輩、私……っ」
“今の先輩格好良すぎます”
そう言いたいけど言えなかった。
声を出そうとすると涙も出そうになっちゃって、今は喋れる状態じゃない。
私は喋れない代わりに、先輩の指をキュッと握った。
――待ってます、先輩。先輩が私の元に帰ってくるなら、いつまででも……。
声にならないこの言葉も伝わるように。
「……ありがとう、愛美。」
心地良い先輩の声が、風と一緒に私の耳を撫でた。
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