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陽月暦00716年
いつもと変わらない穏やかな日。
「エルーー! 早くーー!」
「あぁ……。今、行く」
――俺は今のこの平和な生活に飽き飽きしている
別に平和は嫌いじゃない
だけど、同じことを繰り返すだけの毎日に正直息が詰まる
村の大人たちは、「平和に暮らせれば幸せだ」なんて言ってるけど、俺はそうは思わない
だって、今の平和な生活の中には『退屈』の二文字しか存在していないからだ
俺はもっと、ワクワクするような、そんな人生を送りたいんだ
……なんてね。口先だけでいくら格好つけたって、俺だって心の奥底では分かってるんだ
俺だって、普通の人と同じように平和に暮らして、普通に死んでいくんだってことぐらい
だから、今日は夢を見る最後の一日にしようって考えたんだ
今日一日の間に、俺の人生をひっくり返すような出来事が起きなければ、俺は一生凡人として生きていく
そんな覚悟を決めたんだ
だから俺は、今日、その最後のチャンスを賭けて、村の裏にある封印の祠にやって来た
あぁ何か良いこと起こらないかなぁ……
「エルーー! 早くしてって言ってるでしょ!」
「あぁ。ごめん、ごめん」
彼の名前はエルトール・ラグナ、16歳。
周りの皆からはエルと呼ばれてる黒髪の少年。
彼は首にネックレスを掛けているのだが、このネックレスは古い神話に出てくる女神を型どった物らしい。
特技もまったく無く、至って普通の何処にでも居るような男の子。
……いやいや、失敬。彼にも一つだけなら特技がある。
それは腰に挿してる木刀。
つまり、剣術だ。
自慢じゃないが、彼は村で開催される武術大会の剣術の部で二年連続で優勝するほど実力を持っているのだ。
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