愛護

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 唇が触れた。  肩に掛かる彼の重みに、全身が震える。  自身を支えられずに崩れようとする男性の体重を、女である自分一人で支えられる筈もなく、ローラは膝を着いた。 「ぁっ……ぁあっ……ゃ…ダメッ!」  流れ出る血を止める為に、傷口に手を当てて力の限り押さえる。  溢れる血流が指の間から漏れ出し、血と一緒に彼の体温も奪っていく光景に身がすくむ。  今までこの仕事を続けてきて、ほぼ死に際だという人間を、数える程だが見てきた。  その時は、こんな風に狼狽した事など一度も無かった。  今、目の前で身近な存在が消えようとする状態に、なす術なく子どもの様に喚く自分が、いかにちっぽけなのか思い知らされ愕然とする。
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