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茶色い長髪。愛らしい顔立ち。女らしい身体。
それは、亡くなった主人の愛娘の姿である。
人形の主人は、一ヶ月程前に病に倒れ、そのまま故人になってしまった。
生前、彼は娘を病で亡くしていた。もう手遅れの病だった。彼女は「もっと生きていたかった」と言って、死んでしまったのだ。
彼女のたった一人の親である彼は悔やみ、そして悲しんだ。なぜもっと娘を愛してやれなかったのか。もっともっと娘を色んな所に連れていき、歩んできた人生が楽しい思い出で溢れさせてあげたかった。
そして男は彼の元へとやってきた。
「娘を取り戻したいんだ」と懇願して。
それから間もなくして、彼女が生まれた。男は彼女を本当の娘のように可愛がり、そして愛した。
男が亡くなった今もその深く温かな愛情を忘れる事をしたくなかった人形は、新しい主人に向かって自分の名を名乗る。
稀に聞く話である。
そんな幸福に満たされた人形がなぜ、感情を失い、人を襲っているのか。それが問題であった。
「俺の創作物に手を出す奴が居るなんて、許せないな。」
キュッと眉間に皺を寄せた依智は、左腕に糸を巻き付けて、糸を垂らす。垂らされた糸は、何かに引っ張られるように、ピンッと張られる。
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