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躊躇った一瞬に、人形は依智に向かい、爪を振り下ろそうとする寸前にサーシャが横に蹴り飛ばす。
塀に背中からぶつかり、地面にずれ落ちる人形に依智は一本の糸を繋いだ。
―――― 助けて!
泣き叫ぶような悲鳴の中にもう一つの声が聞こえた。
『聞こえるかな。高天原依智くん。』
は?
依智はわからなかった。なぜ、人形の思考の中から男の声がしたのか。
こんな芸当が出来るのは超一流の魔術師や魔女だけである。しかも、魔王の契約はとても強固なものであり、人形の意志を封じ込めたり、操ったりするなんて出来るわけがない。
そう、出来るわけがないのだ。魔王との契約でなければ。
『やや。気付いたみたいだね。そう、これは魔王の契約で君の人形をこの俺が操っている。』
嘲笑混じりの声が直接脳に届く。
『俺はね、君のファンだ。依智くんの作品に魅了された憐れな男だと思っていてくれて構わない。むしろそちらの方が好都合かな。まぁ、いいや。』
それでも変わらない嘲笑混じりの声に、依智は不快感を隠す事が出来ない。
元より、我が道をズンドコズンドコと、突き進む依智にとってこのような妨害は許しがたい。
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