[序章] 出会い

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少し走った所で男の子は足を止めた。 背中には薬草を入れる為の籠を背負ったままである。 『…人間だ。』 不意にそう呟いた男の子の視線の先には、腹部をおさえ木に寄り掛かり座っている男、クロノスの姿があった。 クロノスは後ろにいた魔物に気付くのが遅れた為腹部を切られていたのだ。 男の子に気付いている気配はなく少し荒い息を繰り返している。 「…リンクかリュイトがいないと治癒出来ないな。」 小声で愚痴を零すクロノスはまだ深い傷を負っている割には元気そうである。 それをジッと見ていた男の子は唐突にクロノスに近付いていった。 「ッ!?…こんな時に魔族かよ!」 男の子に気付いたクロノスはそう呟き殺気を男の子に向けた。 そんな殺気を気にせず、動けなさそうなクロノスの側に膝をつき籠を降ろした。 その行動をクロノスは殺気は消さないが不思議そうに見ていた。 その視線も気にしていないのか男の子は無言で怪我をしている腹部に手を添えた。 それに驚いたクロノスが手を振り払おうとする前に男の子は"縛"と呟いた。 するとクロノスはピクリとも体を動かすことができなかった。もちろん声を出すことも。 『…触れる者の傷を癒せ"治癒"。』 再び男の子が呟けば手を添えていた腹部の傷が、みるみると塞がっていった。 少したてば完全に塞がり男の子は"解"と呟きクロノスを見上げニコリと笑った。 『もう治ったから動いても痛みはないよ。』 「…あ…ぇ?」 その言葉に驚きと困惑を混ぜた顔をしたクロノスは何故魔族の男の子が人間の自分を助けたのか意味が理解できなかった。 今現在アルバスでは人間と魔族は敵同士のはずだと思っているクロノスを余所に男の子は籠を漁って何かを探している。 『あった!これ食べると少しだけ魔力が回復するよ!』 探していたものがあったのかそう言いながらクロノスに差し出したのは黄色い木の実らしきものだった。  
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