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赤坂サカスの緩風切って、バロック風吹く南麻布で次の嫁でも見つけるか。
11月の晴れた真昼は最悪。
優しくも冷たくも
強くも弱くもない
五分五分の風に吹かれると
あの頃に帰りたくなる。
決して使わない五千円札が
また財布ん中で心を重くする。
赤坂通りは街並みが低くて
ビル風さえ向かって来ない。
気の早いクリスマス商戦の赤と
足早に過ぎる人波の黒が
キミの幻影となって
ボクをただ苦しめるだけ。
キミはボクには美しすぎて
釣り合わないコトなんて
最初から解ってたんだ。
17の秋 目黒通りでキミと出逢い
一目惚れしたボクは
足りないボクを埋める為に
必死で勉強して大学入って
必死でバイトして金を貯めて
必死で髪伸ばして金に染めて
必死で体を鍛えて逆三作って
19の春 遂にキミを手に入れて
すぐ同棲始めて
幸せな毎日だったよ。
だけど 誰がどう見たって
ボクは しもべ キミは 女王様
赤と黒でコーデしたキミは
視線を浴びて一段とピカピカッ。
キミの容姿に 見返り万人
ボクの容姿に 総懐疑的。
何で…アノ男なんだ?
うわー似合ってねー!
男の親が金持ちなんだろ…
街で一番不釣合いな僕らは
いつも風の歌を聴きながら
雑音をシャットアウトしたね。
22で学生結婚して
就職も決まって順風満帆。
旧海岸通りで
風の歌を聴きながら
毎日一緒に通勤したね。
でも24の秋 結婚して初めて
口ごたえしたボクに
怒ったヨメが部屋から半裸で
飛び出して僕のバイクに跨がり
ノーヘルで颯爽と闇夜へ
駆け出した時は悲しかったよ。
19からの付き合いだから
バイタリティー溢れるヨメの人生に
何の不安も抱かないボクだけど
泣きながらキミを見送ったんだ。
風穴あいた心を冷たい風がただ
通り過ぎてった五ヶ月後の春
桜田通りを颯爽と南下して
無事に帰って来てくれた
キミとヨメと酒盛りをしたね。
ヨメがウォッカを浴びるほど
キミに飲ませたら
ハイオクのガソリンみたいに
美味しそうに飲んでたね。
ヨメを後ろに乗せて
キミと走った朝焼けの中
ダイナモが焼け堕ちたね。
ヨメが与えたオリ-ブオイルも
口に合わなかったみたいだね。
そうしてキミは儚く
一生を閉じたんだよね。
五年ぽっちの関係だったけど
女王様と聴いた風の歌は
ずっとずっと忘れないよ。
仕方なくヨメが電話して
程なく現れた王様が
ピンピンの五千円札1枚置いて
キミを積んで帰ったんだよ。
キミが教えてくれたように
男の人生は いつも向かい風
でも そのほうがいいさ
人生は何度だって
やり直せるんだから
そのほうがいいさ
追い風で戻れるんだから…
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