隠し事はいつかはバレる。

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ー志郎くんも考え事をしているからか、わたしに気づいていない。 ーわたしが抱き付こうとすると、スルリと避けるくせに……。今日はわたしが近くにいる事さえ気がつかない。鈍いな~♪。 ーそんなわたしを、よそに志郎くんはどんどんと山を登って行き、しばらくして山の中の開けた場所に出た。 ー月明かりが優しく静かに辺りを染め上げる。 ーわたしは木の影に隠れてそっと彼を窺った。 ー開けた場所で目を閉じている志郎くん…。 ーなにしてるのかな…。 いつになく真剣な表情の志郎くんにわたしが見つめていると。 ー志郎くんが紫狼になった。 ーえっ……。あれ、志郎くんが紫狼になっちゃ、ええっ!なんでーえー!ちょっと待ってー!ああん、もうなにが何だかわからないよー!しろうくんがしろうで、しろうがしろうくんで。て言うか!何でわたしに変身できるって教えてくれなかったのよー! ーわたしは声にならない声を心の中で叫けび続けた。 ーでも、嬉しかった。 このときわたしのむねの中は ー志郎くんが紫狼に変身出来ることを『わたし』に隠していたことえの戸惑い(ほぼ怒り)と ーでも、おんなじ狼で里からの異端者ということえの、親愛の喜びと ーもっとも大きい、大切な人に自分を偽らなくてよい、事への歓喜に包まれていた。
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