誤算!崩れ始める原作。

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眠ってる檸檬を抱えながら保健室を目指しているが。 恥ずかしい…。もの凄く恥ずかしい。どれくらいかというと授業参観で親が無駄に注目を浴びてしまうほど恥ずかしい。 廊下を行く俺たちを見ている生徒たちは様々で、嫉妬に込めた視線をぶつけてくる者もいれば、黄色い歓声を上げる者もいる。 注目を浴びる一方、抱きかかえている檸檬もさっきから全く起きず、逆に俺の腕の中が居心地いいのか、すり寄るように体を寄せてくる。 うっ…。何やらよい匂いが檸檬の体から漂ってきている。 シャンプーの匂いなのか鼻先を漂ってきた途端、今まで意識していなかった体の柔らかさが伝わってきて自分の体が熱くなるのを感じた。 意識していなかった分、意識してしまうとなかなか他の事に頭が回らず、必死に煩悩を追い払おうとするが、意志とは正反対に顔だけが赤く染まっていく。 顔が赤く染まっていくなかでも足だけは何とか止めず。器用に手を使わず何とか保健室のドアを開ける。 「あら?檸檬ちゃ『ガシャーン!』」 閉めた。全力で閉めた。足のスナップを最大限に使用して、扉を破砕する勢いで閉めきった。はめ込みガラスが凄まじい音を立てたが檸檬は起きない。当然だ、扉を閉める前に檸檬の耳に手を当てて起こさないようにしたからな。 保健室てけっこう落ち着ける場所である。ここの保健員である、給食のおばちゃん的な少々太めなあの人は、なかなか気さくな御仁で気に入っていた。 そんな落ち着ける場所で、いつもと違う人がいたら驚いて扉を思いっきり閉めてもしかたないと思う。 それも、 「あれ?何で閉めるのかしら」 最も現在会いたくない人だったら。 母性を感じさせる顔立ちにクリーム色の髪、夏なのにピッチリと着込んだ長袖の服。 俺が昔助けた里で話題の人 『穂高深祈』がいたら。
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