誤算!崩れ始める原作。

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好きか……。 騒がしい廊下を歩きながら、呟く。手には朝の犬(檸檬曰わく狼らしいが俺にはお父さん犬にしか見えない)のデフォルトが散らばった弁当箱をぶら下げて。 周りは友達と購買にパンを買いに向かう生徒や、階段でご飯を広げる女子。みな誰かしらと共に食事をしている。 まあ、いつもは自分もその中の一人だが今日は一人で珍しく飯を食う。 いつも一緒に弁当を食べてくれる檸檬はあれから体調不良を理由に午前中に早退してしまった。お役目もあることだし仕方が無いだろう。諏訪部の爺婆にとって学校はお役目の二の次で落第しない程度勉強していれば良いらしい。全く…適当な教育方針なことだ。 正直今日は檸檬がいなくて助かった。 あんなこと言われた日に、話題に上った人と弁当を一緒に食うなんて俺には無理だ。 目に適当なベンチが映ったので、座り弁当を広げる。 弁当を開ければいつものように、色とりどりの食材がキチンと並んでいた。 弁当箱についていた付属の箸をとり、端の狐色の卵焼きをつかみ口に入れる。 ゆっくりと咀嚼すれば薄い醤油の甘味が口に広がる。上手い。思わず顔が綻ぶ。この味を出すのに檸檬はかなり苦労していた。最初に弁当で卵焼きを食べた時なんか、甘すぎてお菓子かと誤解したほどだった。 初めて俺が上手いと言った時の檸檬の顔は本当に良かった。あまりの喜びように周りの人間の度肝を抜くほどだった。 『どう………志郎くん?』 『………上手い。』 『本当?本当に本当??前みたいに、お砂糖が口の中でジャリジャリしたりしてない…?』 『してない、してない。大丈夫だ。醤油の甘い味がして俺は好きだな。』 『…う、ううっ………。』 『……?どうした檸檬?』 『やっったあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!』 『うおっ!檸檬落ち着け~~!!』 あん時は檸檬を抑え込むのが大変だったな。自然に笑みが浮かぶ。 『檸檬ちゃんが好きなんでしょう?』 ああ、好きだ。 正直に言おう。 俺は檸檬が好きだ。
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