会敵弐。見通しの甘さ。

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砕かれた第三の腕 から吐き出された毒々しい煙が視界に入ると同時に本能がけたたましい警笛をなした。 「チッ!」  紫色の煙など、古今東西、どんな場所だって毒が相場と決まっている。  とっさに回避しようとするが、破壊された腕から、まるで関を切ったように溢れる煙に、あっと言う間にまかれる。  まず感じたのは、強烈な刺激臭と鼻への猛烈な痛みと不快感。  人間ならまだしも、なまじ人間より数万倍も鼻が効く狼だというのが皮肉だった。  産まれて初めて感じる強烈な鼻への痛みが、理性をめちゃくちゃにし、何よりも真っ先に、この不快で自分を苦しめる煙を排除することしか頭のなかになかった。  三郎の事など完全に忘れていたのである。  放電と来撃千雷で煙を吹き飛ばす、僅か、十数秒のことだった。  気づいた時には後の祭りで、三郎の姿などどこにも無く、破壊された歩道と、コンクリート、三郎やクナイの残骸がゴロゴロ転がっていた。 ー逃げられた と思うと同時に ー檸檬!  止血もせずに、怪我人を放って置けばどうなるか馬鹿でも解る。  大量出血は三十分で致死率は50%。ただこれはあくまでも平均で、場合によっては死ななくても、後遺症が残る場合もある。 最悪のビジョンがよぎり、慌てて後ろを見る。  結果的には良い意味でも悪い意味でも予想は外れた。  最悪の想定をされた檸檬だが、簡易的な治療が施され地面に横たわっている。血の匂いこそする物の、どうやら出血は止まっているようだ。  ただ、その横に何年も前に命を救った女性が妙に笑顔で立っていたが。 どうやら、今日は長い夜になりそうである。
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