バレた代償と新たな決意

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 檸檬を受け取った穂高から、そっと離れ距離をとる。  それを怪訝そうに穂高が見つめるが、気にもせず、また紫狼に変身する。  ずるりと、目線があがり体がずるりと引き伸ばされるた感覚が体中にはしる。 体を確かめ、向き直ると自然に穂高と目があった。  綺麗な目だ、少なくとも前世でこんな目を見たことはない。  不意に穂高がくすりと微笑み、今までとは違った表情で見つめてくる。 見覚えがあった。もう二度と見れない顔と重なった。 不意に望郷の年に駆られるが、振り払い、そっと穂高に近づき、乗りやすいように腹ばいになる。 「乗れ、…本家まで突っ走る」 だが、彼女はなかなか乗らない。どうも躊躇っているようだ。 「……大丈夫なの?そんな事をしたら、志郎くんは…」  二重の驚きが走った。俺への心配ともう一つ。 「覚えてたのか、会ったのは、数回。それも何年も昔の話だぞ」  なるべく会わないようにしてたのに。 「何でって……。ねぇ」  そう言って、彼女は可笑しそうに、嬉しそうに腕の中の檸檬を見つめる。 なんとなく分かったような気がした。 「話の腰折って悪いな。速く乗れ、いくら檸檬が軽いといっても、女の身で持ち続けるのは骨が折れるだろ」 「…良いの?」 穂高の最終確認。分かるんだろな。 「覚悟の上だ」  さらば、穏やか?な生活。こんにちは、陰険で貪欲な魔境諏訪部。 「それに…」  穂高が檸檬を抱えて俺の背に乗る。どうやら、檸檬を抱えたまま楽になれる姿勢を探しているようだ。 「惚れた女の為だ」  保健室での意味返し。  見えないが、背中で穂高が笑ったような気がした。 「…男の子なのね志郎くんも…」 クスクスと嬉しそうに笑う。 それを合図、俺は走りだした。
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