バレた代償と新たな決意

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 はしるハシル走る。二本足ではなく、獣のように四本で。黒髪でなく、紫の剛毛を風に靡かせ。地面の舗装されたベトンでなく、林を森を空を、まさしく一本の槍として駆ける。  進路上の木々や石の間をギリギリの間隔でかわし、殆ど一直線で本家を目指す紫狼。  紫の残像が暗闇を一瞬激しくも薄く照らし、闇の緞帳を真横に切り裂く。  もし、この妖しくも美しい光景を人が見ればこう呟くだろう。 【紫電一閃】と ーーーーーーー  ギリッと歯を噛み締めたいのが俺の今の気持ちだった。  抱えた時に分かった、いつもよりも軽く、真っ白だった檸檬。  失った血液がどの程度かはわからない。血は止まっている。だが簡易的なもので、それも今のように動けば傷が開くかもしれない。  でも速く治療しなければ、悪化する可能性もある。  そんな二択のなかで俺は前者を取った。  なるべく速い速度を出せるように、久しぶりに能力を使い鞍のような物を背に出現させ穂高がバランスをとりやすいようにした。  後はひたすら走った。紫狼になってから初めて必死になって走った。  山を超え、空を突っ切り、途中に張って合った本家の結界を喰い破り、吹き飛ばした。  最後の森を超えると、大きな武家屋敷の門が見えたので、大きく跳躍して屋敷内に侵入し、本殿のなかに着地する。  本殿の中には、明らかに強者や古参と思える者が集まっていた。  これは好都合、これだけいれば、優秀な治癒術士もまじっているだろう。  サッと伏せ、背中の穂高に降りるように促すと、穂高は一言、礼を言い檸檬を抱えて走っていった。  相手も俺に誰が乗っているのか気づいたようで、何人かが駆け寄っていき、途端に騒がしくなった。
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