愛してないし、一生そばにい続けるな

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ラドンの帰りを待ちつつ、宿に予め備え付けられていた本棚から興味深い文庫を取り出して読んでいると、気付けば日付が変わっていた。 この時間になっても帰ってこないところを見ると、もしかしたらラドンとリンは別の部屋をとってしまっているのかもしれない。 そうすると、この部屋では朝まで一人きりということになるな。 一人など慣れっこだと強がってみても、あの騒がしくて楽しい空間を一度でも味わってしまえば、そんなことは言えなくなった。 無音の部屋、ページを捲る音、時計の針の音、そしてノックの音。 顔を上げてドアを見つめるが、ノックの主が入ってくる様子はない。 ラドンかとも思ったが、ラドンならノックなどせずに入ってくることだろう。 本に栞を挟むと椅子から立ち、ドアへと向かう。 ゆっくりと開くと、真っ暗な廊下にふわりと浮遊する幽霊の姿があった。 何も知らない人がこれを見たらしたら、それなりの恐怖体験であることは間違いない。 「あ、起きてた」 ホッとしたような声を出すテルルは、薄いネグリジェに身を包み、なんだか恐縮そうに身を縮めてこちらを見上げていた。 「ん、どうした?」 「ううん、特に用はないんだけど」 おずおずと俺の様子を確認する姿に、ドアを大きく開いてやる。 「入るか?」 俺の言葉に、目を細めて嬉しそうな笑顔を作るテルル。 「うん」 飛び込むように中に入って来る彼女がいつも通りだったから、俺は静かに息をついた。 彼女がこの部屋に来たということは、女子部屋にはノレンとローレンだけということか。 この時間ならもう寝ているかもしれないが。 いや、ノレンはどうだろう。 ノールは基本的に夜行性だから、ノレンにも同じことが言えるはずだ。
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