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「おまえもやろっ!」
返事はしたのに。
聞こえなかったらしい、苛々したのか。振り返り叫ぶ声は真剣で、ギラギラした瞳が心臓に悪い。
それと共にする覚悟を決めたのは、いつのまにか随分前で。
「当たり前やろがいっ」
今度は大きく返事をした。カップルの不細工な女に笑われたが気になんてしていられない。
その様子に満足した泥くさい笑顔がいくぞっとまた前を向いて歩きだした。
(後悔などしてない、暇もない)
くしゃくしゃに丸めた肉屋の包み紙を背中に投げ付けた。
(プレイボール!あ、空振り)
まるで自分達みたいだと笑ってた、振り向いたあいつの顔があまりにも間抜けだから、教えてやった。
おまえさ。
「格好つけても口にカスついてるから説得力ないで」
慌てて拭き取る指先だけは綺麗に見えた。まだ打席にさえ立ってないからな、ベースボールは終わらない。
END
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