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コンティニュー
楽屋の隅に小汚い俺、まだゲームは始まってもいなかった。
いち、に、さん。
暇つぶしに頭の中で数字を数え始めてみたが眠気など襲ってはこない。次は耳を澄ましてみる。がやがやと沸き立つそれらは、俺には関係のないものである。疎外感はないし入りたいとも思わないもののいつも宙に浮いたような感覚に陥る。
それに慣れてしまったのはいつ頃からだったのだろうか、しー、ご、ろく。
「なぁ」
しち、はち、
腑抜けた声と共に、肩に感覚があった。
ああ錯覚か。
無視しつづければもう一度なぁ、と同じ声が聞こえた。
振り向くと俺にはまるで似合わない可愛い顔が見えて、それは口角を上げた。
「おまえゲームすきなんやろ、」
キラキラした猫目が、眩しい。その中に含まれた無邪気さにどうしたらいいか分からず自分の握りしめた拳の先を見つめて、息を吸った。
「…あ、はい」
愛想のない返答だ。そう自嘲した自分を見て一瞬見開いた猫目はその後ふにゃりと笑った。
「おまえ笑った方が、ええよ」
きゅー、じゅ。
天使みたい、
柄にもなく思った。そんな言葉は生まれてこのかた、使ったこともないのにな。なんだこれ。
まだ
コンティニューはできますか、
頭に浮かんだ場違いな言葉を飲み込んで、さっきより少し大きな声ではいと言った。
END
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