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新モデルのスニーカーが気になる。ぺらりとめくったページに載ったそいつ、あー俺ならこの色。
先程から喋り続ける聞き慣れてしまった特徴的な声は気にならない。もーきーてよぅ、ねーってばぁ。ぺちぺち膝を叩きながら、甘えたようにふにゃふにゃと喋るから、はいはいと頭を撫でると静かになるのは分かっている。
「…ぼくさ、たまにたべちゃいたくなるときがあるんだよね。」
聞き流そうとした。反射的に顔をあげると目が合った。親指でページの角に折り目をつけて、雑誌を閉じた。
無邪気な笑顔。
紛れ込んだ瞳が本当は笑っていないことは俺しか気付いていない。
「…なに、を」
ぴしっと人差し指。
音を出さずにおまえ、と唇が動いた。
距離が近い。
鼻先に前髪が当たってくすぐったいのに拒否することはしなかった。できなかった。
反らさせない目はもういつも通りだった。どこか寂しそうに見えた。冗談だよう。舌を出して、満足そうに悪魔が笑った。
END
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