忘れる唄

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それが変わってしまったのはいつからなのか分からない。忘れてしまったあの気持ちはまだあの場所に置き去りのまま。 東京の冬は、寒い上にこんなに寂しいのか。 「…もしもしぃおれやけど」 「もーこんな時間になんやねん!」 また飲んでたのか。 呂律の回っていない口調に苦笑が零れる。ついでに涙も。 あんなに「ずっと一緒にいたかった」のになぁ。 想像した不機嫌な口元は未だに八重歯のままだった。忘れてきたものは、案外そういう小さなことなのかもしれない。 「おー、すまんな。…ほんでもう1個謝らないとあかんねん」 もう、 取りにいけないのは分かっているんだ。 涙は流れたまま。 釣られるように受話器の向こう、すすり泣く声が聞こえた。 END  
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