終わり

2/6
前へ
/130ページ
次へ
「すまない、離婚してくれ。」 目の前には懇願して頭を下げてくる夫。 否、夫とも呼べる程、結婚して日にちは経っていない。 何てったって入籍を済ませて幾日もしないのだから。 机の上に置かれた離婚届。世間では新婚と呼ばれる家庭にこれ程、物騒なものはない。 「はぁ…。…はぁっ?!」 前半はあまりの事に拍子抜けした私の返事。それを聞いてがばっと上半身を起こした相手と目が合い、叫んだのが後半である。 「ちょっと待ってよ、裕一さん。私、全然、言ってる意味が……」 両者の間に重苦しい沈黙。 確かにこの結婚は大恋愛の末ではない。お見合いという形式張ったものだった。 結婚適齢期を迎え、同世代が次々と結婚していく現状を目の当たりにして焦る私に、降って湧いた見合い話。 どうやら気立てや器量の良さを会社の幹部に買われたらしく、それが上司から上司を伝って私に流れ込んだというもの。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1533人が本棚に入れています
本棚に追加