早朝、晴天、風弱し

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「うわっ!!!」  叫び声の後、木造の家が揺れる程の振動と、落下音が外まで届く。  二人は、あぁ、またか、と呆れ気味に家の方を見る。  襾乘鴣がずるずると地面を移動しながら口を開いた。 「…じゃあ、ちょっと助けに行ってきます」 「はい、行ってらっしゃい」  やまつばめは笑顔で手を振ると、釜戸に向き直り火の加減を調整した。  これで朝食の準備に入ることができる。  彼が離れの炊事場で、いつものように動いていたら、襾乘鴣はもう一人を伴って姿を現した。  家を揺らした原因を作ったのは、襾乘鴣と双子である襾津廼(カヅノ)だ。  双子、とはいうものの、全く持って似ていない。  闇の如く黒い髪に、黒い瞳。  彼の瞳は、新月の夜の闇のようだった。  普通、黒い瞳と言っても、厳密には黒ではなく茶系といった方が近い。  しかし彼は違うのだ。  そして、下半身は襾乘鴣同様、人間のそれではない。  逞しい上半身故の、逞しい脚が八本あった。  下半身は蜘蛛のそれだ。  鉤爪の鋭い指先に、ふくらはぎの位置からは鋭く太い刺が数本生えている。  腰には布を巻き、上半身は何も身に付けず、八本の脚を器用に動かして襾乘鴣の後ろを歩いてきた。 「…おはよう、やまさん」 「おはよう。また二階から落ちたのか」 「………」  若干、無愛想という印象を持たれがちな仏頂面で挨拶をする襾津廼に、やまつばめは笑顔で返した。 「朝弱いのに、無理して起きるからさ」  襾乘鴣も笑いながら言う。  朝の目が覚めきらない状態で、八本もある脚で階段を降りようとすれば、もつれて派手に落下してしまうのだ、それも毎回のように。 「怪我は無いかい?」 「…ん、無い……」  ぐるぐると首を回しながら、襾津廼は小さく呟くように言った。  その様子に、やまつばめは笑みを溢した。  しかし家の二階に向けて呆れた口調で言う。 「…全く、いつまでも寝ていられるんだな、あいつは」
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