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日が傾き始め、夕焼けが町並みを暖かな赤色に染める頃。桜庭(さくらば)高校の校舎裏には品のない笑い声が響いていた。
「――でよ、そいつ泣きながら、眼鏡が眼鏡がってさ!」
「ぎゃははは! 目の前にあるっつーの!」
「真っ二つだけど、って俺がやったんだけどさ!」
「ぎゃははは!」
声の主である二人の男子生徒が花を咲かしているのは、先日片方の男が一人の生徒より金銭を巻き上げた時の話である。
決して笑い話でも武勇伝でもないというのに、二人はさも当然のように、そして楽しそうに談話していた。
「それで、その後どうしたんだよ?」
聞き役の男が笑い疲れたように一呼吸置き、側に置いてあった缶ジュースを拾い上げて炭酸ジュースをゴクリと飲み込む
ぷはーっと息を吐いた後、どうせ気心知れた仲間と二人きりだからと躊躇なくゲップをする。
「…………」
そして男が再び缶を脇に置くまでの間、そこには不自然に静かな時間が流れていた。
「おい、どうしたんだ? 続きはどうなったんだよ」
饒舌だった仲間が黙り込んだのを不自然に感じ、男はそちらに視線を送る。
「あれ?」
するとそこにもう一人の姿はなかった。
キョロキョロと辺りを見渡してみても、やはり仲間の姿はどこにも見えない。
「んだよ、帰っちまったのか?」
別れの挨拶どころか会話の途中でいなくなってしまった事を不審に思いながらも、男は呆れたようにそう呟いてから立ち上がった。
そしてもう一度仲間がいないのを見渡して確認し、溜息を吐いてから缶を拾い上げようと腰を屈めた、その時。
「お前で最後だ」
背後から氷のように冷たい声を掛けられた。
そして振り返る間も無くガシュッという金属を削り取ったかのような音が響き、その瞬間、残された男が消え去った。
二人の生徒が消えた場所、校舎裏には先程の冷たい声の主である少年が笑みを浮かべて立っていた。
彼も二人の男同様にここ、桜庭高校の制服を着ている。小柄な男子生徒だ。
彼は消えた男の拾い上げようとしていた缶を、ゆっくりとした動作で手に取る。
「フフ、やっと終わった」
そして抑えられない笑みを浮かべた口でそう紡ぎ、彼は缶をポイっと背後に放り投げた。
――シュッ!
そして中身を零す間もなく、小さな音を立ててその缶も姿を消した。
夕焼けにより、不吉に朱に染まった校舎裏。
そこに、高らかな笑い声が響いた。
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