0人が本棚に入れています
本棚に追加
「三日前、私も同じ事を思ったわ」
三日前。その日も俺はこのバーで酒を飲んでいた。
「三日前、君もここに居たのか」
「それからよ。こんな未来が見え始めたのは」
「熱烈な一目惚れだな」
彼女が睨むので俺は冗談だとフォローした。
「知り合うかどうかはスイッチじゃないみたいなのよ。だから話しかけた」
「それで、俺はどうすればいい?」
「私の未来の為にバーに来ないでくれれば良いわ」
接点を潰すのは確かに良策だ。だがこのバーはとても気に入ってる。
「せめて曜日制にしないか?それぞれ来て良い曜日を決めてさ」
「それじゃあ会おうと思ったら会えちゃうじゃない。それじゃあダメなの」
もっと真剣に運命と立ち向かえと彼女は俺を叱る。確かに、俺はなんとしてでも金曜日を確保しようなどと考えていたので、素直に反省した。
彼女の言葉通りなら、お互いが望んでも会えないよう、彼女もこのバーには来なくなるのだろう。それならば五分五分の提案だ。
俺は大人しく従う事にした。
「分かった。もうこのバーには来ないよ」
「ありがとう。私ももう来ないと約束するわ」
マスターが微妙な表情で俺たちを見ている中、そんな約束を俺たちは交わした。
俺は支払いを済ませ、鞄を持って立ち上がる。
「待ちなさい」
彼女が何故か俺を睨みつける。はて、何か気に障る事をしただろうか?
「なんでまだ同じ未来が見えるのよ」
どうやら未来が変わっていないらしい。
「貴方、こっそりこのバーを使う気でしょ」
「使わないよ。それに、それが理由ならその場に君もいるって事だろう」
俺の指摘に彼女は納得し、何故未来が変わらないのか頭を捻る。
「今ならまだ引き返せるって事だろう。俺が店を出て、君もここを去ればもう会えない。未来も変わらざるを得ないだろう」
「なるほど、そうも考えられるわね」
それじゃ、と言って去ろうとする俺をまた彼女が呼び止める。
「もしまた未来が変わらなかった時、会えないんじゃ対策が立てられないわ。これ、私の携帯の番号」
「確かにそうだな」
彼女は俺に数字を綴った紙を渡し、俺は名刺を差し出した。
「それじゃあね」
「ああ、さようなら」
俺はそう言ってバーを後にした。彼女もたぶん、すぐ後にバーを去っただろう。
最初のコメントを投稿しよう!