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翌日、未来が変わらないと彼女が連絡を寄越してきた。
「考えてみたら番号を交換したら会えちゃうじゃない」
「会おうと思っても会えないようにするはずだったのにな」
昨日と同じバーで昨晩のミスを二人で嘆いた。
「お互いに携帯の番号を消して紙も捨てる。これで大丈夫だろう」
「たぶんダメね」
簡単に彼女は一蹴した。
「なんでダメなんだ?」
「はい、私の名刺」
俺は彼女の差し出した名刺を受け取る。そこには俺と同じ会社名が綴られていた。
「まさかだな」
「まさかね。更に社宅のマンションの部屋は隣同士よ」
これでは番号を消した所で無力だ。
なんとか策を考えるが思いつかない。お互い会社を辞めて引っ越せば良いのだがそんな事は出来ない。
「今も昨日と同じ未来が見えるのか?」
良い考えが浮かばず、なんとなく尋ねると彼女は鋭い視線を俺に向けた。明らかに怒っている。
「貴方は一年後の今日、残業で遅いみたいよ。 私は一緒にご飯を食べようとずっと家で待ってるのに」
なるほど。不機嫌の理由はそれか。
興味もない男に延々待たされてるんだから確かに仕方がない。
「先に食べればいいだろう」
「そういう性格なのよ」
俺は思わず溜息を漏らし、彼女に更に鋭い視線を向けられた。
「それに」
睨みつけていた視線を下に移し、彼女は寂しそうな顔をする。
「今日は私の誕生日なの」
「それでか」
「うん」
誕生日だというのに残業で待たされ蔑(ないがし)ろにされれば、一年後の出来事とはいえ、怒りもするし寂しくもなるだろう。
「なんでこんな男なのよ。もっと思いやりのある人にすれば良いのに」
「すまんな」
一年後とはいえ否がある俺は素直に謝った。
しかし、一つ腑に落ちない事がある。
俺は記憶力が良い。妻か彼女かは分からないが、その相手の誕生日を忘れる訳がない。逆に俺の性格からすればサプライズでも仕込みそうなものなんだが。
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