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「……それが、お前の望みなのか?」 「そうよ。最近セレブ合コンに、上手く潜りこむ事が出来てね。いい感じの医者の人がいるのよね。デートなんかも、あなたとは桁違いよ」 「……そんな事で、お前は幸せなのか……?」 「あなたには関係ないわ。早くその同意書にサインしてよ。病院の予約だって、もう決まってるんだから」 治は、溢れる涙を堪えきる事が出来なかった。 まだ名前すらない、小さな小さな命。この子はいったい何のために……。 産まれてきたら、大事に育ててあげたかった。 駄目な自分とは違い、どんな大きな夢も叶えられるように、『夢』の字を使って名付けてあげるつもりでいた。 香奈子に似たなら、さぞかし可愛い子だったろうに。 男の子だったら、いつも公園でキャッチボールやサッカーをして遊び回って。 女の子だったら、目に入れても痛くないくらいに、可愛がってあげただろう。 ごめんな……不甲斐ないパパと、自分勝手なママでごめんな……。 ひとしきり涙を流した後、治は小さな命の人生を左右する書類に、署名捺印をした──。
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