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「俺は……!」 俯いていた治が顔を上げ、香奈子に向かって声を荒げた。 「お前の言う通り、どうせ就職も決まらない、コンビニ勤めのフリーターだよ。普通なら付き合えるような立場じゃないさ。だけどな……」 テーブルの上に載っている同意書がかすんで見える。涙が滲んできた。 「出会い系だったけどさ、俺はお前と付き合えて楽しかったんだ。俺なんかと違って、お前美人で頭もいいし……夢みたいだったよ」 香奈子は、紫煙を燻らせたまま表情を変えない。 「それでお前から『出来た』って聞かされて、すごくうれしかったんだ。甲斐性無しの俺だけど、頑張って働こうって。ささやかでもいい、産まれてくる赤ちゃんと三人で、幸せな家庭を築いていこうって……」 「あなたのその貧乏ったらしいところが、一番嫌なのよ」 香奈子は灰皿に煙草を、腹立たしいとでも言うかのように、ギュッと力強く押し付けた。
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