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「ホント、倦怠期ってものが無いのかしら。見てて痒くなってくるわ。あんたらは」
テーブルの上に置かれた紅茶を口に含み、先ほどひょっこり訪ねてきた親友西川ゆう子が笑う。
「なんだか最近口調が艦長さんに似てきたよ、ゆう子ちゃん」
向かいの椅子に座り直した天城亜希は、かえでを抱き寄せ、お茶請けのバウムクーヘンを食んだ。
「え、マジで? あんたもそう思う!?」と身を乗り出したゆう子に、亜希は無言を返答に代える。
「もー、やぁ……」と嘆いて頭を抱えたゆう子はそれでもバウムクーヘンを口に入れるのを忘れなかった。
「かえでぇー。あんたも私があの艦長に似てると思うー?」
テーブルにあごを乗せ、ゆう子は手を伸ばして亜希の懐に収まっているかえでの右手を握る。
きょとんとしたかえでの左手をとり、「思うー」と言って挙手させた亜希の目を見上げ、ゆう子はもう一つため息をついた。
「亜希が羨ましいわー。一緒にオペレーターやってた頃と変わってないわね。全っ然」
「ゆう子ちゃんだって」
「そう言ってくれると助かるわー。私、まだ二十三歳なのにさ、六年も勤務してると立派に先輩なのよネ。ゆう子さんゆう子さんって。ストレスたまって小じわが出来ちゃう」
「あはは……」
「最近ね、ぺーぺーのヒヨコちゃんをなんとか半人前くらいまで育てたんだけど……その子がなんとあの艦長の艦所属になったのよ!」
「すごい、すごい!」
「冗談じゃないわ。あの子がヘマでもしたらどうするの。私がなじられるだけじゃない。『そんなんだからいつまで経ってもいい男が見つからないのよ』って。キーッ!」
ゆう子は額をテーブルにぺたりとつき、「……はあ、胃がキリキリするぅ」と搾り出した。
「まぁ、本人が喜んでるみたいだから構わないけど」
「ゆう子ちゃん、立派にお姉さんだよ。ね? かえで」
「んっ」
「ねー?」
我が子を抱き締めて頬を擦り付けている亜希を、ゆう子はテーブルに頬杖をつき、微笑を浮かべて見つめた。
「本当、幸せそうね。亜希」
優しく煌めく蒼い瞳を上げ、亜希は笑う。
娘にも受け継がれたその蒼い瞳は、六年前から変わらず、まるで少女のように輝いていた。
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