影 落ちる刻

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「ゲホッ、ゲホッ……! ガハッ……! 畜生!!」 椅子やコンクリート片が散乱する式典会場の隅で、紺色の第二種軍装を海水でずぶ濡れにした二宮が悪態をつきながら身体を起こした。 突如鳴り響いた爆音と、次いで襲ってきた津波。 わけもわからないまま、目の前にいた恵美を抱き抱えた瞬間、港湾部のコンクリートに炸裂しても力を残していた大量の海水が辺り一面を吹き飛ばし、その場にいた全員を押し流した。 前列の方であったからか、引いていく海水もろとも海へ引きずり込まれる最悪の事態は免れたが、彼女を庇い、背中を式典のセットに強か打ち付ける事に。 「おい……おい! 姐さん、生きてるか!?」 二宮の腕の下でうずくまっていた恵美の肩を揺すり、その無事を確認する。 反応無しに一瞬ひやりとした感覚が背を駆けたが、その時、海水を必死で掻いて綿のように疲れ切った二宮の手を恵美の右手が掴んだ。 「生きてるに決まってんでしょ! こんな死に方ごめんなさいだわァァゲホっ、ゲホッ!!」 がばと起き上がり、そしてすぐに咳き込んだ恵美の生命力の強さに感嘆し、二宮は震える足で立ち上がった。 会場に面した海へと目をやり、海水に濡れた短い髪を掻き上げ、呟く。 「なんとまぁ……船が空から降ってきやがった」 遠目にもわかるほど大きく揺れる船は軍艦に見える。 どれ程の高さから落ちればああなるのか、完全に船体をひしゃげさせ、喪服のように黒塗りさせた軍艦は皮肉のように思えた。 「笑えねェよ」 周囲は人やら椅子やらWFやらが散乱して酷い状況であり、葬儀も何もあったものではない。 中にはコンクリート片が頭部に直撃した者もいるようで、全体的な被害は決して少なくはない。 頭から血を流して呻くひときわ重傷の士官を見つけた二宮は、彼の元へ駆け寄ろうとした。 しかし、駆け出した一歩が地面に着くよりも、大地を引き裂く雷鳴のような轟音と激震がその足をすくうのが先だった。 それなりに場数は踏んでいる自負はあっても、こればかりは全く慣れない。 足がすくむ。 大量の火薬が爆ぜる音。 落下によって完全に破砕しているように見えて、実際は全く機能に支障を来していなかった海上の戦艦甲板部に装備された八○ミリクラスの単装砲が火を吹いた音だった。
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