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啓太にとっては目につく雲の動きもぴたりと止まり、あるのは青空と雲、そして銀色に輝くWF【ミグ】のみ。
エンジン音と管制塔からの呼び掛けが絶えず鼓膜を震わせていなければ、青空に溶け込んでいってしまうような感覚だった。
「よお、ロシア野郎。人様の国にわざわざ入り込んで楽しいかよ」
こちらのコクピットに真っ直ぐ向けられた銃口を見ながら、啓太は話し掛けた。
今、日本で最も高い場所にある銃口が日差しを受けて光っている。
いつ二○ミリの弾丸が噴き出してくるかわからなかったが、啓太には恐怖よりも、この【ミグ】への憎悪が先立った。
確かに、まるで攻撃するかのような行動をとったのは不味かった。
下手をすれば【ミグ】から先制攻撃を受けていたし、今頃管制塔は大混乱、大竹はかんかんになっているに違いない。
軍法会議モノだなと心のどこかで思ったが、そんな躊躇も苦笑に変えて、啓太は【ミグ】から目を離さなかった。
「なぁ。この国平和だろ? 壊すなよ」
今、この国は底抜けに平和で、頭に花が咲くくらい惚けている。
それでいい。
それがいい。
親を戦争で亡くす虚しさを、知る必要は誰にも無いから。
だから許せない。
平和な国に、厄介ごとを持ち込んで喜んでいる連中が。
「そっちは冗談のつもりでも、こっちはいちいち気が気じゃないんだよ」
日本語で何を言っても伝わらないかもしれない。
伝わって、通用する連中ではないかもしれない。
そういう連中が本当にいるから、あの蒼い朝、十一歳の啓太は帝都に突き刺さった紅の柱をテレビで見せ付けられる事になったのだ。
両親を骨まで残さず焼き尽くし、その命も生きた証も否定したあの光を。
それからは、何もかもを嫌悪した。
両親を殺した月の連中も、家族を守れなかった無能な日本軍も。
そして月のWTを瞬く間に切り裂いていく、大戦の英雄天城幸人の記録映像を、胸のすく思いで薄笑いを浮かべて視ていたあの頃の自分も。
紅い記憶が、何もかもを変える。
当事者達にいかなる理由があろうとも。
「何とか言えよ」
思わず声を荒げた。
こちらが何を思っていても、彼らには通用しない。
こうやって冷めた目で見下ろして、平和ボケのとぼけた思想だと嗤っている。
「ふざけんな……!」と怒鳴った啓太は、殆ど弾かれるようにバルカンを放とうとした。
目の前を黒い影が高速で横切ったのは、その時だった。
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