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「ふ~ん…そっか、でも良かったよ、これで上にも顔が立つよ」
局長は両手を摺り合わせニヤケながら言った
「…失礼します」
(良かった?何が?あの少女が押した事がか?)
ガチャッ
タカシは静かに退室した
…
「沢田タカシか…もしかしたら危険思想の疑いが強いかも知れないねぇ…」
局長は窓の遠くを眺め呟いた
施設からの帰り道
施設から自宅までは自転車で15分の所に在り、通勤や帰宅はもっぱら自転車で行き来していた
だがタカシは自転車を押しながら帰っていた
誰かが<押した日>はいつも自転車を押しながら帰っている
声を押し殺し泣きながら
苦しみながら
側に居ながら自ら命を絶つ事を止められない自分の無力さを呪いながら
タカシは望んで警備員の仕事をしたのでは無かった
国からの通知を受理しただけなのだ
無論、拒否権は無く
背けば<国犯>扱い
やらざるを得なかったのだ
「タ~カシ!」
突然タカシの背中を叩いた人
「…エリ」
タカシは振り返りながら彼女の名前を呼んだ
「…泣いてるの?」
エリは顔を覗き込みながら言った
「な、泣いて無いよ!」
(ゴシゴシ)
タカシは右腕で涙を拭きながら言った
「誰か…押したのね?」
エリはタカシの様子を察して悲しそうな声で聞いた
「うん…チカコちゃんが押したんだ」
「そっか、タカシが遊んであげてた子ね」
「…入って来たばかりのチカコちゃんは、すごく怖がってた…でも特例法の事を教えたら少し元気になってくれて、頑張るって言ってくれたんだ」
「ありがとう」って笑ってくれたんだ
…それなのに…
タカシは空を見上げたが
目頭の熱い物を抑えきれずこぼした
―特例法―
周波装置の設置から六年間、起動装置を押さなかった場合、被験者を検査対象外とし、装置を取り外した後、私生活へ戻す事とする。
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