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「世界は、人間たちで溢れかえってしまって、もう行き場がなくなってる。
夢も希望も何処に求めていいのかも、分からなくなってきている。
それは、滅亡へと続く道でしかないのかしら。。。」
千鶴は答えが欲しくてそういったのではない。
当然彼には応えられないのは分かっていた。
誰もが問いかけたい事なのだから。
「そういうの、やめよう。俺たちが考えて分かるものではないんだから。」
昨日の夜の2人の会話。
でも知りたい。
希望も夢もなくして、何も知らない振りをしてただ生きていくだけなんて。
見てみない振りなどできはしない。
どちらが本当の世界か分からないけれど、見たまま以外の世界があるなんて知らなかったあの頃。
毎日が楽しい日とそうでない日だけに分かれていて、太陽が昇って沈んでいく。
それは、地球が太陽の周りを回っていようが、太陽が地球の周りを回っていようが、あまり関係の無い世界。
情報がこんなに溢れかえる世界で、見たくもない世界の細部の光景を目の当たりに見ることができても、知らない振りができるんだろうか?
彼が全く考えていないのでないことは、分かる。
考えてもやはり、どうにもならないことに逆にいらだっている。
それが分かるから、あえて彼女は問いかけたかった。
きっと何処かに答えがある。そしてそれを、共に探しに行きたい。
ただ、それだけ。
翌日、いつものように会った。
昨夜は、千鶴が誘って彼を呼び出した。
けれど、何も進展がないまま、会話も少なく、別れたのだった。
小沼千鶴と彼、野田裕之二人は、同じ国の機関で働いている。
彼女は肩の力を抜いて、昨日とは違って、さりげなく聞いた。
「この間の夏休みは、どうだった? エンジョイできたのかしら?」
できる限りそっけない振りをして聞いた。
本当はもっといろいろ問いただしたいことがたくさんあったけれど。
野田裕之はこの夏、1人でヨーロッパへふらりと出かけていった。
当然、人の休暇にとやかく言う筋合いではない。
けれど、この時期にそれほど長いとは思えない休暇にヨーロッパを選ぶなんて、と思っていたのだ。
彼にしては意外な行動だった。
「あぁ。。。いろいろと考えたよ。これからのこととか。」
これから・・・・って?
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