走る男

3/3
前へ
/106ページ
次へ
急いでベランダから外を覗くと…いる。あの男が。 男は迷わずベランダの柱を鋸で切り始めた。 訳の分からないAはとりあえず、 「おい! なにすんだよ! やめろよ!」 と男に怒鳴った。 すると男はAを見上げた。Aは思わず息をのんだ。 画面からは確認できなかったが、男は両目がロンパッてカメレオンのようだ。 そしてボロボロの歯をむき出しにしてニヤッと笑い、走って視界から消えたかと思うと、階段を駆け上がる音が聞こえる。 「ヤバい! ここに来る!」 鍵を閉めようと玄関に急ぐが、男はもうそこに立っていた。 居間まで追いつめ、鋸を振りかざす男。 Aはとっさにリモコンで停止ボタンを押した。 その瞬間、男は居なくなっていた。鋸もない。 Aはすぐにビデオからテープを引っ張り出してゴミ箱に捨てた。 Aの部屋のベランダの柱には、深々と鋸の痕が残っていた。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加