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ハイドが張ったのは光の結界。対して、クロスが操るのもまた光。同じものを操る者同士、実力に差が開いていたのなら、どちらかが逆に操られるのはある意味当然のことと言えた。
ぐにゃり、と絶対守護の名を持ったハイドのヴァルハラが折れ曲がり、その合間を縫ってクロスが侵入する。
その時点で、ハイドの敗北は決定的なものとなっていた。
万が一にも勝機があるとすれば、かつて少女の姿をした青年に使った、試合に負けて勝負に勝った作戦ぐらいのものだが、クロスには通じないだろう。この少年は、かの青年ほど甘くはない。
いや、本当の勝機は先程だ。
精神力が切れたフリをして誘い出し、クロスを捕らえたあの時に勝負を決めなければならなかった。それを逃した時点で、ハイドは負けていたのだ。クロスが誤った轍を踏まない限りは。
だが、それは途方もなく低い確率だった。
クロスには恐らく、ハイドを倒すために踏まなければならない段階をわきまえている。確証はないが、聡い彼がそれを誤つのは考えづらかった。
果たして、“強化の光(プロテクト・レディアンス)”を施した後の第三戟目は、ハイドではなく左手人差し指に嵌めた指輪だった。
アパスティと呼ばれるそれが、音を立てて砕けていく。
そう、それが正しい。ハイドには治癒能力がある。いくら身体を痛め付けたとしても、生きている限りは戦闘不能にはなり得ない。
故に、生かしたままハイドを戦闘不能に追い込むには魔法を使えなくする必要がある。そのための確実な方法が、これ。
アパスティは、ハイドら魔導師にとっての要だ。これを失って、魔法を使う事はできない。
その事を、クロスはこのたった数分の立ち合いの中で見抜いたのだ。
流石、という他ない。
「チェックメイトだ……な」
突き付けられたその言葉と刃に、ハイドは黙って両手を上げた。
「参りました」
それが、二人の戦いの幕だった。
──主人公対決。
クロス=ダーウィンvsハイド=ヴァレンス。
勝者、クロス=ダーウィン。
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