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二十メートル四方で区切られた真白い空間。そこに二人の少年がいた。
片方は漆黒のコートを羽織っており、その目線は刃のように鋭く冷たい。それとは対照的に髪はボサボサというなんともアンバランスな少年──クロス=ダーウィン。
対するもう片方の少年──否、青年は鋭さなど欠片も有していない。線一本で描かれる笑みを絶やさず続け、鮮やかな水色の髪は故意か他意か、一房が三日月のように跳ねている。そんな一度見たら忘れられないような青年の名は、ハイド=ヴァレンス。
「いやぁ、それにしても光栄ですねぇ」
先に口を開いたのは、軽薄な青年の方だった。
「僕の物語は二枚看板の物語。主人公対決と銘打たれたこの戦いに、果たして僕だけで良いのでしょうか?」
「フン。ならばそいつも連れて来い。お前一人では力不足……だ」
「ハッキリ言いますねぇ。まぁ、否定はしませんよ。僕は僕の世界でも最強という部類には入っていませんから。いや、それにしても力不足ですか。役不足と言ってくれるのを実は期待していたのですが、中々どうして、上手くいかないものです。貴方はやはり、賢い人の部類に入るのですね」
「……口数の多い奴」
「よく言われます。そして言われる度に思うのですが、それは悪口なのですか?」
「少なくとも俺は嫌味を込めて言ったつもりだが……な。どうやら伝わっていないらしい」
「やだなぁ、ちゃんと伝わってますよ。その上で訊いているんです」
ピキ、と何かが立つ音がした。それは無論、クロスの青筋が立つ音である。
「もう良い。前戯はここまで……だ。貴様のその減らず口と胡散臭い笑顔、二度と叩けないようにしてやる」
クロスはそして、懐から取り出した琥珀色の球体を刀へと変形させた。クロスが得意とする万物の構成を変化させる技術、錬金術である。
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