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「フフ。では、始めるとしますか」
そう言って、ハイドもまた戦闘体勢に入った。
右手を上に、左手を下に構える独特の構え。
「ストームブレイド──ブライトリーシールド」
その右手に光の盾が、左手に風の剣がそれぞれ形作られる。
ハイドが駆使するのはクロスと同じ錬金術ではない。無から有を取り出す神の御業、魔法である。もっとも、それを可能にしているのは神などではなくハイドの左手の人差し指で輝く指輪だが。
「貴方の事は聞いています。だから、手加減はしません。全力で行きます」
薄く開かれた事で覗いた瞳には、獲物を前にした狩人の魂が宿っていた。
知る人ぞ知る、ハイドの本気モードである。
ただし、それに畏れをなすクロスではない。豹変と表しても差し支えないようなハイドの変化に一分の動揺も見せず。
「行く……ぞ」
と、ただ一言呟いて突撃を開始した。
身体強化といった類の魔法は使っていない、生身の突撃だ。だが、速い。確実に捉えていたはずのハイドが、危うく見失ってしまいそうになるほどに。とは言うものの、捉えきれない速度というわけでもない。
クロスが右凪ぎに刀を降り下ろしたところに盾を伴った右手を差し込む。
瞬間、二つがぶつかり合い、拒絶し合う音が響く。クロスの斬戟は圧倒的な速度と反比例するように軽かった。
片手で押し返し、弾いた事で生じたであろう隙を衝いて左手の刃を振るう。
──が、それは罠だった。
難なく身体を斬り裂くはずだったハイドの刃は流れるようにクロスの身体をすり抜け、代わりに腹部に衝撃が走る。蹴られた、と分かるまで数秒の時間を要した。
それほどまでに予想外な反撃。
しかしよくよく考えてみると、クロスの行動は初めから不自然だった。
クロスは右手に刀を持っており、ハイドは逆に左手に刃がある。ならば、反撃を考慮して左凪ぎに刃を振るうのが通例だろう。しかしクロスは右凪ぎに刃を振るった。まるで、盾で防いでくれと言わんばかりに。
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