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それらの事実から弾き出される答えは一つ。
クロスには初めから分かっていたのだ。
クロスの速さにハイドが戸惑う事も、右凪ぎに刃を振るえばガードし弾き返す事も、そしてそれによって生じる隙を見逃さないであろう事も、全て。把握していた上で実行に移した。
驚くべき思考力と判断力、それに加えて行動力も。ハイドは改めて敵わないと思う。
だが。
「僕もそう簡単にはやられませんよ!」
蹴られた勢いそのままにハイドは上空に浮かぶ。それこそが、恐らくハイドの勝利への唯一の道。
クロスは確かに強いが、その能力は人間の枠に留まっている。空を飛ぶ事など断じてできない。故に、制空権はハイドにある。
そして何より、ハイドは魔法による遠距離攻撃を持っているが、クロスは持っていない。
状況は一転し、ハイドに優勢に傾く──はずだった。
「考えた……な。俺は確かに、飛ぶ事はできない。……が」
クロスは鼻を鳴らしながら言って、その場で軽くジャンプした。気の抜けた跳躍はすぐに最大点を越え、落ちる。
そしてクロスは、空中に着地した。──瞬間、ロケットのようにクロスの身体が跳び跳ね、一気にハイドのいる地点へと漸近した。
「跳ぶ事はできる!」
言葉と同時に刀を振るう。
「なっ」
驚きを隠せないながらも盾でガードし、反撃を試みる。だが刃を突き出した時にはもう、クロスの姿は遥か彼方にあった。
「一体、どうやって……?」
怪訝な表情を取るハイドに、クロスは懇切丁寧に教えてやる。
魔力で箱のようなものを形成し、それを爆破させる事によって文字通り爆発的な速度を得る高速歩方“瞬天”。クロスが使ったのはそれである。
「……成程。それで貴方はそうやって空中に立っていられる訳ですね。しかし何故それを僕に?」
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