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「気にするな。ただの気まぐれ……だ」
言って、クロスは魔力で作った足場を爆破。その勢いを利用してハイドの背後に回り込む。
だがそれをハイドは読んでいた。
降り下ろされた刀を身を捻るようにしてかわし、返す刀でクロスの身体を狙う。その反撃は、本気だったが牽制だった。
クロスならば、この程度の反撃は想定内のはず。故に、容易く回避して何らかの攻撃を加えてくると考えていた。事実、今までのクロスの行動を鑑みると、そうするのは不思議な話ではない。いや、むしろそうしない事こそが不自然だった。
だから、クロスがハイドの反撃をかわさないというこの事態は、あまりにも異常に見えた。
ハイドの斬戟が通る。集束した風の刃がクロスの漆黒の身体を斬り裂いて──“クロスの身体が霞のように揺らいで消える”。
「なっ!」
「どうした?」
その声は、ハイドの正面から。そこには何もない。だが確実に、クロスの声はそこから聴こえていた。
「俺の幻でも見ていた……か?」
言葉と同時、鋭い痛みがハイドを襲う。遅れて、痛みがした腹部からじんわりと血が広がり、そこから琥珀色の刀が生えてきた。
「これ……は……」
ハイドは刀を掴もうとするが、それよりも早く引き抜かれる。そして意識した時にはもう、クロスは姿を現していた。
「“幻惑なる蜃気楼(ダズル・ミラージュ)”」
光を屈折させ、何もない空間に虚像を作り出すクロスの秘奥の一つである。
「フフ。油断しましたよ。貴方は光を操るのでしたね」
顔面蒼白になりながらも、ハイドはしかし笑みを崩さない。
「ああ、その通り……だ」
クロスもまた、不敵な笑みでそれに応える。
両者共に分かっているのだ。
──戦いはまだ、終わっていない。
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