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「アクアヒーリング」
ハイドの身体が青い輝きに包まれる。すると、瞬く間に刺された傷が塞がっていく。
「治癒能力……か」
厄介……な、と呟いてクロスは次手に移る。“幻惑なる蜃気楼(ダズル・ミラージュ)”を用い、二人に分身。二人同時に斬りかかる。
「ムダですよ。同じ手が何度も通じるほど、僕は甘くない」
言って、ハイドは風の刃を創り出し、射出。二人のクロスを切り裂く。だが、幻影。斬られたクロスが霞のように揺らいで消える。
そんな事は分かっていた。
クロスの本命も、ハイドの本命も別のところにある。
先に動いたのは、ハイド。刃と化した左腕を、ただ徒に凪ぐ。
一見無策無謀に見えたその攻撃は、しかし今に本命の一撃を放とうとしていたクロスを捉えた。
「な……に……ッ!?」
よほどあり得ない事だったのだろう。現れたクロスの顔が驚愕に歪む。
その変化を喜ぶようにハイドは微笑み、蹴りを放つ。脳内処理が追いついていないクロスに、それをかわす術はなかった。
だが、それで終わるクロスでもない。
蹴られた直後に体勢を建て直し、魔力で創り出した足場に着地する。そして蹴られた腹を押さえながら、一言。
「……成程。風……か」
そう呟いた。
「正解です。凄いですねぇ。たったの一度で見切るなんて。正直、もう少し引っ張れるかと思ってたんですが、残念です」
風。
クロスが呟いたそれこそがハイドの本命だった。
ご存知の通り、ハイドは風を操る事ができる。それは同時に、周囲の風の動きを感じる事ができるという事だ。
人間に限らず、物体が動けば波が生じ風が揺らぐ。ハイドはそれを感じたにすぎない。
何も難しい事はないが、わざわざ実戦に使うまでもない技術。だがそれは、クロスの“幻惑なる蜃気楼(ダズル・ミラージュ)”を相手どるにはこれ以上ない技術だ。
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