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「“幻惑なる蜃気楼(ダズル・ミラージュ)”使えない……か。なら、正面から叩き潰すだけ……だ」
クロスが翔る。
ハイドもまた、正面から迎え撃つ。
こと空中戦、遠距離戦においてはハイドに分がある。対するクロスはその差を補って余りあるほどの経験と技量を有している。だがそのどれもが、決定打にはなり得ない。
このまま戦いが長引けば不利になるのはハイドの方だ。足場を創り出すだけのクロスに対し、ハイドはこの状態を維持するために常時消費し続けている。このまま続けていればどういう結末が待ち受けているか、それが分からないハイドではない。
何か打開策を考えなければ──。
と、そんな事を考えた時だった。
「え……?」
ハイドの武装が唐突に解け、空から落ちる。
時間切れ。ハイドの精神力が尽きたのだ。
「馬鹿……が。己の力を見誤りやがって……」
二人の戦いは、どちらかが完全な戦闘不能になるまで終わらない。言いながら、クロスはトドメを刺すべく疾駆する。
「呆気なかった……が、これで終わり……」
だ、と刀を降り下ろした直後、クロスは見た。絶体絶命のこの境地で、ハイドが唇を歪めるのを。
マズイ。これは──。
しかし、もう降り下ろした腕は止まらない。
二人の影が交錯する。
クロスの刃は、果たしてハイドの身体を斬り裂いていた。だが同時に、クロスの身体も拘束されていた。
「魔力が切れたように見せたのはフェイク……か」
「いやぁ。貴方を騙せたなら、中々どうして、僕の演技も棄てたものじゃないですねぇ」
クロスの目前で、血にまみれたハイドが凄絶に笑う。
「それでも、最後には気づいたようですが。となると、やはりギリギリまで引き付けたのは正解でしたねぇ。肉を切らせて骨を断つ……を再現した訳ではありませんが、ようやく貴方を捕らえる事ができました」
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