8人が本棚に入れています
本棚に追加
「ッ──」
何とか拘束から逃れようともがくが、きらびやかに光る水の縄はそう簡単にほどけそうにない。
「では、そろそろフィナーレといきましょう」
歌うように言ったハイドの左手に風が集まる。形成するものは先程の剣と似て非なるもの。ハイドの掌の中で風が渦巻き、渦巻き、渦巻き、やがて形をなす。
「止まる事のない螺旋──僕が考え出した、風の最高の形です」
できた形は、球体だった。
その中で風は半永久的に回り続け、加速し続ける。それは正に究極の風と表現しても差し支えないだろう。
「もっとも、これはそのほんの一部にすぎないのですが、これ以上の貴方に時間を与えるのは頂けない。──だから、行きますよ」
その球体に言い知れぬ恐怖を感じたクロスは、錬金術を発動。手に持った刀を、自らの身体を丸ごと包み込む巨大な盾に。
「ムダです!」
クロスの持つ錬金玉はありとあらゆる成分を詰め込み、どんな形をなす事も可能にするダーウィン家の家宝だ。配分次第で最強の矛になる事も、最硬の盾になる事もできる。
だが、ハイドの風はその上を行く。
クロスの最硬の盾を難なく破り、そのままクロスを吹き飛ばす。
「これにて幕、ですね」
「……それは、どうか……な」
その声は、クロスを吹き飛ばした方角から。
見ると、腹に大きな傷を抱えたクロスが立ち上がっていた。
「ムリはしない方が良いですよ。貴方の傷は浅くないのですから」
「ナメる……な。治癒能力……は、お前の専売特許ではない……」
よくよく見ると、クロスの身体に淡い光が宿っていた。その恩恵か、クロスの傷口が徐々に塞がっていく。だがそれでも、ハイドの一撃が致命傷である事には変わらない。ハイドの究極の風は、元々人体といわず触れた全ての物を破壊し尽くす業なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!