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「本当に、まだ続けるつもり……ですか」
「生憎と、この程度の傷は茶飯事で……な、この程度で倒れる訳には行かないんだよ」
一歩、前へ進む。
「それにしても、お前にここまでやられるとは思わなかった。力不足と言った言葉は、取り消そう」
「それはどうも」
「だが、これで本当に終わり……だ」
“強化の光(プロテクト・レディアンス)”──と、クロスは呟いた。
瞬間、クロスの身体をより一層の光が包み込み、消える。
衝撃は一瞬だった。
クロスの姿が見えないままに、ハイドの身体に斜めの線が走る。斬られた、と知覚するよりも早く、背中に第二戟が入る。
「また幻影……ですかッ」
空中で踏みとどまり、声を絞り出すハイド。だが言っている事は見当外れだ。
クロスは“幻惑なる蜃気楼(ダズル・ミラージュ)”なんて使っていない。ただ普通に接近して斬りつけただけだ。
だが、ハイドはクロスの動きを捉える事ができない。
その矛盾を解決するのは容易い。ただ単純に、クロスが速すぎるのだ。
電気信号を操って身体能力を極限まで高める──クロスのとっておきの一つ、“強化の光(プロテクト・レディアンス)”の能力がそれである。
「くっ……ならばッ」
仕掛けに気づいたのだろう。呆然と宙に浮かんでいたハイドが対策を講じる。
「絶対守護領域──ヴァルハラ!」
金色の指輪がより一層輝きを増し、ハイドの全身を光が覆い隠す。三百六十度四角なしのバリア。これなら──
「これなら、いくら速かろうと、見えなかろうと関係ありませんよ」
確かに。その線は悪くない。
実際、クロスに足りないものは力だ。強固な守りの前に手も足も出ないのは実証済みである。
ただし。
「馬鹿……が。こと光の扱いにおいて、俺に勝てると思うな!」
その強固な守りが、光でなかった時の場合の限る。
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