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大きな坂道を一台の黒塗りの車が昇って来る。
綺麗な着物で着飾った母親の隣にならぶと、彼女は私を見て眉をよせた。
私の服装が気に入らないらしい。
控えめなレースの入った上品な白いワンピースよりも、着物のほうが良かったというのか。
―――ミーン ミーン
蝉が鳴く。
こんな暑い日にはTシャツと短パンで十分でしょ。着物なんて着てられない。
―――キィ‥
目の前に車が止まり、後部座席から出て来たのは年齢的に考えて……松峯恭司、本人だろう。
10年前の記憶は断片的だし、もともと彼のことなんて覚えていない。
だから、面影があるとかは分からないけど……。
“冷たそうな人”
それが、私が感じた彼への印象だ。
端正な顔立ちで目鼻立ちがハッキリしているせいだろうか。
少し目が合っただけで睨まれたような錯覚に陥る。……いや、睨まれたのかな。
彼だって18歳っていうお年頃なのに、私なんかと結婚する運命(さだめ)の人。
実はまだ、正式に婚約が決まったわけではない。
私達の意見を無視するのは酷だということで今回、彼はこちらの別宅に住むことになったのだ。
つまり私達は、夏の1ヶ月限定の恋愛期間を貰ったと言って構わないだろう。
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