ひとりぼっち

4/10
前へ
/46ページ
次へ
       大きな坂道を一台の黒塗りの車が昇って来る。  綺麗な着物で着飾った母親の隣にならぶと、彼女は私を見て眉をよせた。  私の服装が気に入らないらしい。  控えめなレースの入った上品な白いワンピースよりも、着物のほうが良かったというのか。  ―――ミーン ミーン  蝉が鳴く。  こんな暑い日にはTシャツと短パンで十分でしょ。着物なんて着てられない。  ―――キィ‥  目の前に車が止まり、後部座席から出て来たのは年齢的に考えて……松峯恭司、本人だろう。  10年前の記憶は断片的だし、もともと彼のことなんて覚えていない。  だから、面影があるとかは分からないけど……。  “冷たそうな人”  それが、私が感じた彼への印象だ。  端正な顔立ちで目鼻立ちがハッキリしているせいだろうか。  少し目が合っただけで睨まれたような錯覚に陥る。……いや、睨まれたのかな。  彼だって18歳っていうお年頃なのに、私なんかと結婚する運命(さだめ)の人。  実はまだ、正式に婚約が決まったわけではない。  私達の意見を無視するのは酷だということで今回、彼はこちらの別宅に住むことになったのだ。  つまり私達は、夏の1ヶ月限定の恋愛期間を貰ったと言って構わないだろう。  
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加