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不満じゃない、といえばこのまま流されるままに結婚。
だとしたら、私が不満だと答えれば彼はどういう反応を見せるのだろう。
―――結婚を、辞めにする?
だけどそうしたら、松峯からの資金援助は断ち切られる。
そして松峯も、九条の名前があったほうが今後においても好都合なはずだ。
容易な発言は出来ない。
「私との婚約は不満も何もまだ正式に決定していません。だから不満どうこう以前の問題かと」
少し無理矢理に話を反らして、私は再び歩きはじめようとした。
動きを止めたのは、彼が私の腕を掴んだから。
「いや、決定事項だ。お前が不満だと言っても、俺はその不満を全て取り除くまで。どんな状況であれ、辞めにする気は毛頭ない」
そこまで言って彼は掴んでいた腕を離したけど、私は動けないまま。
「……なんで」
まるで、蛇に睨まれた蛙。怯んだ私は、そう聞き返すだけで精一杯。
彼は、優しい眼をして言う。
「日向が好きだ。10年前、初めて会ったときから、ずっと」
真っ直ぐで、何の偽りもない言葉。
この人なら大切にしてくれる。だから、この人に恋をしよう。
そう、心の中で誓った。
―――なのに。
あんなことになるなんて、思ってもみなかったから。
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