ひとりぼっち

6/10
前へ
/46ページ
次へ
       不満じゃない、といえばこのまま流されるままに結婚。  だとしたら、私が不満だと答えれば彼はどういう反応を見せるのだろう。  ―――結婚を、辞めにする?  だけどそうしたら、松峯からの資金援助は断ち切られる。  そして松峯も、九条の名前があったほうが今後においても好都合なはずだ。  容易な発言は出来ない。 「私との婚約は不満も何もまだ正式に決定していません。だから不満どうこう以前の問題かと」  少し無理矢理に話を反らして、私は再び歩きはじめようとした。  動きを止めたのは、彼が私の腕を掴んだから。 「いや、決定事項だ。お前が不満だと言っても、俺はその不満を全て取り除くまで。どんな状況であれ、辞めにする気は毛頭ない」  そこまで言って彼は掴んでいた腕を離したけど、私は動けないまま。 「……なんで」  まるで、蛇に睨まれた蛙。怯んだ私は、そう聞き返すだけで精一杯。  彼は、優しい眼をして言う。 「日向が好きだ。10年前、初めて会ったときから、ずっと」  真っ直ぐで、何の偽りもない言葉。  この人なら大切にしてくれる。だから、この人に恋をしよう。 そう、心の中で誓った。  ―――なのに。  あんなことになるなんて、思ってもみなかったから。  
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加