プロローグ

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       ふとユウを見上げてみると、彼は柔らかい微笑で私の頭を撫でている。  もちろん温もりは伝わってこないけれど、彼に撫でられるのは心地好い。  決して結ばれないと分かっているのに、惹かれてしまう。泥沼だ。  進めば進むほど深みにはまって抜け出せない。  いけないことなのだと実感した瞬間、その想いは更に加速する。 「今だけを考えればいい。大丈夫だよ、ヒナ」 「……うん」  彼は優しいけれど、その優しさが、残酷。  ユウの優しさが  ユウの微笑みが  ユウの温もりが  私を現実から遠ざけて、何も見えなくしてしまう。惑わされてしまう。  愛の言葉を囁かれたことなんて無い。ましてや、彼の体温に身を預けたことも無い。  彼はただ、微笑むだけ。甘くて優しいだけの幻みたいな存在。  ―――だけど、彼から逃れることなんて……出来ない。 「今は、俺の傍にいて。あの頃みたいに」  ―――ハチミツみたい。  ソレは甘く纏わり付いて、離れない。  
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