プロローグ

8/9

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
       たったひと夏を一緒に過ごした相手だけれど、彼以上に愛せる人なんて 想像も出来ない。  それ以前に、彼以上が存在したのだとしても、叶うはずがないのだ。  ―――私は、あの人と結婚するのだから。  書類と指輪に縛られて、私は一生あの人のモノ。  あの人は、私のことを大切にしてくれる。きっと、幸せになれる。  だけど、だからこそ悲しくて、辛い。 「……約束しよう。だから、悲しい顔しないで」  彼の言葉に、いつの間にか寄ってしまっていた眉間のシワにハッとした。  それを見て、彼は『可愛い』と笑う。 「……約束?」 「そう、約束。4年前だって約束したから。だから俺は記憶を取り戻しても、ヒナと再会できたんだと思うんだ」  私は、あの人のモノになってしまうのに。 「だから、約束。またココに逢いに来て」 「でも……」  彼は、もう消えてしまうのに。 「心から幸せだと思えたその年のひまわり咲く頃に、逢いに来て」     私は微笑んで、頷いた。  それは優しくて、叶うはずのない約束だってユウは分かっているのだろうか。 「ココに居るから。ヒナが幸せだって報告に来てくれるその日まで」  ―――ユウが居ない幸せなんて、考えられないのに。  ユウは、消えた。  ひまわりを揺らす、夏風と共に。  
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加