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潮引きの音はきっと、この街のどこにいても聞こえるだろう。
波音に混じり、じゃりじゃりとサンダルと砂の擦れる音。
それ以外は無音、すっかり街が寝静まってしまっている。
街灯なんかまるで無いに等しい。
真っ暗なのに、星が迫る様にある。
星の光なんかで明るくなるわけじゃないけれど、都会の空に星は浮かばない。
砂浜と道路をわけるコンクリートの塀に腰かける。
ちょうど今は満ち潮だ。
昼に見た時より水位が迫ってきている。
腰ばきしていたジーンズのポケットから、あまり吸わない煙草を取り出す。
煙草は余程暇な時にしか口にしない。
何故かライターが見当たらない、軽く舌うちしてしまおうとすると、落ちているライターが目についた。
多分旅行客が捨てていったのだろう。
ほとんど祈る様に金具を擦る。
しゅ、と火がともる。やりい。
それからは吸うと言っても、ただぼんやり口にくわえているだけだった。
たまに思い出して、吸って、吐く。
やがて煙草は消える。まだまだ長い煙草を砂浜に投げた。
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