序章

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大学生になると、俺と彼女の関係もぐんぐん縮まった。 最初彼女は俺のことを「佐和(サワ)くん」と呼んでいたのに、 今では「ひこくん」と愛称で呼ぶくらいにはなった。 ああ、俺は名前がコンプレックスだから愛称のが嬉しい。 だって弥彦だぞ?どこの時代の人だよ。 俺も知らなかった彼女の名前を知る。 彼女の名前は舞(マイ)。 俺は最初から舞と呼んでいた。 会ったときから恋人同士だったんだからな。 大学生活も、もう六月に入る。 入学から二ヶ月、やっと課題の多さにも、友好関係にも慣れつつあった。 「よう ひこ!」 俺の愛称は小中高大、一貫して『ひこ』だった。 弥彦(ヤヒコ)という渋めの名前が嫌だった俺は、家族にひこと呼ばれていた。 あれは小学校の入学式。 先生からの話を聞いていると、母がいきなり教室の戸を壊す勢いで入ってきた。 そのとき母は大声で叫んだのだ。 ひこ と。 それは先生から皆へと浸透していき、今に至る訳だ。 さてはて、俺はその愛称を今誰かに呼ばれたのだ。 振り返って人物を確認する。
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