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「はぁ…しゃあねーなぁ。今日のところは諦めるか」
あまりにアイリスが頑ななものだから、遂に俺は折れる事にした。
「今日もこのクソ暑い中、40分間汗だくで自転車を漕いで行きますよ…」
肩を竦めるも、ちょっとだけ期待しながら『押してダメなら引いてみろ』作戦。
「良いじゃねーか、そうやって少しは身体を鍛えろよ、モヤシ」
「悪かったな、モヤシで…」
だが案の定、返ってきたのは毒舌だった。
「…でも、じゃあ、今度仕事じゃ無い日にでも乗せてくれよ。それなら別に、不吉じゃないだろ?」
「…。」
すると、アイリスは何故か困った顔で俯いてしまった。
「…?」
その時だった。
「あっ、アイリスお姉ちゃんだー!!」
「ロスト兄ちゃんもいるぞ!!」
俺とアイリスに気付いた子供たちが、わらわらと寄って来た。
普段のアイリスのノリを見ると、
『うるせぇクソガキ!離れろ!』
とか何とか言いそうなものだが、
「ねぇねぇ、アイリスお姉ちゃんって、『ばーど』なんでしょー!?」
「あぁ、そうだよ」
その無邪気な、満面の笑み。俺は久しく、正面から見た記憶が無いんだけど…
アイリスは、此処の子供達には優しかった。
「わたしもね、いつかアイリスお姉ちゃんみたいな、つよぉーい『おんなせんし』になって、わるいやつからみんなをまもるんだ!」
二つ縛りの金髪の女の子が、キックのつもりだろうか、ぎこちなく足を上げ、アイリスへ微笑んだ。
「そーかそーか、ミリアは運動神経がいいもんな」
アイリスも微笑んで、その少女の頭を撫でる。
「えへへ」
頭の上にあるアイリスのそれを、嬉しそうに両手で追いながら笑う少女を見れば…
俺も思わず、微笑まずにはいられなかった。
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