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「なぁ、ロスト…」
俺が、遥か向こうまで広がる『ノートル草原』を眺めながらそんな事を考えていると、今度は珍しくアイリスの方から話し掛けて来た。
「ん、何だ?」
「お前が就職する研究所、名前は何て言ったっけか?」
アイリスにしては普通の質問だった。
「あぁ、『国立先端応用魔石科学センター』ってとこだ。何だよ、急に?」
彼女がこういう質問をする時は、何か真剣に考えている時。
「国立先端?ま…お…何つった?」
俺も真剣に答えてやる。
「国立先端、応用、魔石、科学センター」
丁寧に言い直してやったんだが、
「あー…まぁいいや」
アイリスは、その長い名前を覚える事は諦めたようだ。
「そこって、一体どんな研究をしてるとこなんだ?」
「んー…魔石に関する研究全般だな。専門分野もラボ(研究室)によって全然違う」
「もっと具体的には?」
ずいぶんと突っ込んで来るな…。
「俺だってまだ勤務してるわけじゃないし、そんなに詳しくは知らないって。まぁ、俺が行くラボは、魔石の結晶構造の解析とか、それを元にしたエネルギー増幅のシミュレーションとかやってるみたいだけど…」
「んー、そうか、さっぱりわかんねーわ」
「…。じゃあ聞くなっつの…」
ガタン、と、車が大きく揺れて、フロントガラスの手前に置いてあったシロクマのぬいぐるみが落ちそうになるのを、
「おっと…」
アイリスが上手くキャッチして、元の場所に戻す。
今、車体を揺らした段差は、いつも自転車で通る時に苦労するやつだ。
ここを過ぎれば、首都フリッツガルドの入口まで、あと少し。
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