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「なぁ、ロスト…」
「ん?」
「前にも話したと思うけどよ、あたしは、目の前で両親を殺されたんだ…」
「あぁ…何だよ、急に…」
ふっ、と、何だかアイリスの周りの空気が、萎んだように感じた。
「それ以来さ、あたしはいつも恐がってる。誰かと親しくなる度に、もし、そいつが急にいなくなったら…あたしはそれに耐えられるのか、って…」
「…」
ガタン、ガタンと、タイヤが道の凸凹の上を走る音が、妙に大きく聞こえる。
だがアイリスは、すぐにそんな寂しい空気に気付いて、くすりと笑いを漏らすと、
「もちろんロスト、お前みたいなモヤシでもだ」
「…そいつはどーも」
ちょっと無理矢理かもしれないけど、いつもの調子に戻そうとするのでした。
アイリスがこんな事を話すのは初めての事だが、そりゃそうだ、と俺は思った。
いつも強気に振る舞っているアイリスだが、目の前で両親を殺されたんだ。心に傷を負っていない方がおかしい。
何ともなしに車の天井へ目をやって、俺はそんな事を考えた。
「でもなぁ、最近気付いたんだ。…コイツだけは、さ…」
と、アイリスは何とも言えない苦笑いを浮かべながら、
「コイツだけは何があっても、あたしの傍に居てくれるんじゃないか、ってな…」
その小さな指先で、シロクマの鼻先をつついた。
アイリスに似合わない可愛らしい仕種とは裏腹に、その笑顔は、どこか寂しげで、自嘲気味で…
俺の位置からだと横顔しか見えない。でも、今のアイリスの瞳は何だか、俺の視線を引き付けてやまない何かを湛えていた。
だが、俺の口から出てきたのは、誰にでも言えそうな、ただ事実をならべただけの言葉。
「そりゃあ、ぬいぐるみだもんな。死ぬ事は…無いだろうよ…」
そんな事しか言えない自分に、若干失望を覚えながらも、
「まぁでも、悪かった。大事なもんなんだな」
とりあえず、アイリスに一言、お詫びだけ言った。
「…」
アイリスが、小さく何か言った。
「え?」
「いや…、何でもねーよ」
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