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それから、会話らしい会話は無かった。
『ドルシェベーカリー』から大学まではほんの数分。この短時間で、あんな話の後に話せる話題なんて無かった。
だがまぁ、ちょっと重い話をしたくらいでギクシャクするような仲でもない。
ふっ、と、右手の景色が庭園になる。
2本の赤れんがの柱が、青々と繁る木々の中に埋め込まれたような、フリッツガルド大学の正門が見えて来た。
ふと、同じく赤れんが造りの歩道の上に、よく見知ったシルエットがあることに気付く。
その姿は、窓の外、俺の目の前をあっという間に通り過ぎた。
木漏れ日の下、2匹の犬を連れて歩く、白いワンピースの女性。…まさかと思って振り返ってみると、やはりニーナだった。
ずいぶんと早くから来るもんだと思う。まだ集合時間まで25分はあるのだ。
もし俺が本当に30分も遅刻していたら、非常に申し訳ない事になっていた。
明日から目覚ましを5個に増やそう、と、ちょうど俺が密かな決心をしたところで、車は正門前に到着。
アイリスが、今度は正しくブレーキを踏んで、ゆっくりと停車した。
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